【監修】川島 淳
院長
中高年で発症することが多い病気です。高齢になるほど発症頻度は増加します。若くてもなることもありますが、まれです。ゆっくりと症状が出て悪化するので気づかれにくく、高齢者では、年のせいと思われて診断が遅れてしまい、悪くなってしまうこともあるので注意が必要です。
動作が遅くなる、ふるえる、手が使いにくい、転びやすい、歩きにくいなどの運動症状が主体です。ただし、便秘、睡眠障害、足のむずむず感、においに鈍感になるなど、運動症状以外にも多彩な症状があります。
脳の中のドーパミンという物質が減ることによって特徴的な運動症状を呈します。
なぜ、ドーパミンを作る細胞が弱ってしまうかは、まだ十分にはわかっていません。
基本的には、専門医による特徴的症状の確認が必要です。
パーキンソン病と似ている病気も多くあり注意が必要です。
何かの検査で簡単に診断がつくことはありません。本当にパーキンソン病かどうかは慎重に診断を進める必要があります。薬への反応性を確認したり、十分に時間をかけて診断する必要があります。
脳MRI検査などがあります。
パーキンソン病に似ている病気の鑑別のために、補助的検査として、ドーパミントランスポーターSPECT検査やMIBG心筋シンチグラフィー検査といった特殊な検査を行うこともあります。
薬物療法とリハビリテーション(運動療法)を行います。
どちらも重要で、一人ひとりに合わせた薬物調整と早期からのリハビリテーション開始が大切です。
特別な理由がない限り、特に運動療法(リハビリテーション)は、早期に開始した方がよいと思われます。薬物治療の開始については、個人の生活状況に合わせて判断していく必要があります。ただし、治療の遅れによる不利益のないようにする注意が必要です。
パーキンソン病の運動症状は、脳の中でのドーパミンという物質が減少することによって出現します。そのため、このドーパミンを薬で補うことが治療の主体になります。
ドーパミンの原料となるレボドパというお薬の投与が治療の中心となります。その他にもいろいろな薬があり、組み合わせたりすることにより、個人に合わせた治療を行います。
年齢や生活状況、仕事内容など、病気の症状だけでなく、その他の多くのことを考慮して薬を選択していきます。
基本的には、薬は内服が中心になりますが、その他に、貼り薬(貼付剤)や注射による治療もあります。また、薬の内服だけでは病気のコントロールが難しくなった場合には、医療用補助機械(デバイスと呼びます)を使用した治療、時に外科的処置を伴う治療が行われることもあります。
脳深部刺激療法、LCIG療法(レボドパ・カルビドパ水和物配合経腸用液療法)、ヴィアレブ®治療(ホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注射治療)があります。
脳深部刺激療法
脳深部刺激療法は、脳外科と連携して、脳の深いところ(大脳基底核)に電極を埋め込み電気的に刺激することによりパーキンソン病の症状を改善する治療です。一部の限られた医療機関にて行われています。
LCIG
LCIG療法は胃ろうから通した管から、直接、薬を小腸に送り込む治療法です。
下記で、詳しく紹介いたします。
ヴィアレブ®
ヴィアレブ®治療は、皮下に薬剤を持続的に投与する治療です。
下記で、詳しく紹介いたします。
病気が経過し、症状に変動が目立つようになり、一日に何回も薬を服用しなければならなくなった場合、また、それでも日中の活動期に薬の効果が弱くなり動きが鈍くなる時間が目立つようになる時期を、進行期と言います。パーキンソン病の治療は、進行期でも、たとえ寝たきりになったとしても継続が必要です。
進行期のパーキンソン病で、飲み薬の時間や量・組み合わせなどの調整をしても症状のコントロールが難しく、生活の障害が目立つ場合には、医療補助機械(デバイス)を使用した治療の対象となります。
そのデバイス治療のひとつに、レボドパ・カルビドパ経腸用液療法(LCIG療法)と呼ばれる治療があります。
LCIG療法では、レボドパ・カルビドパ合剤であるデュオドーパ®(内服薬では、メネシット®、ネオドパストン®と同じ分類)を、薬の吸収部位である小腸(空腸)に直接投与します。
これによって、進行期のパーキンソン病で問題となる薬の効果の変動や不随意運動といった症状が大きく軽減されます。
LCIG療法を行う上で大切なこととは?
2016年に発売されたデュオドーパ®と言う薬を用いたLCIG療法を効果的に行い、生活に役立てるためには、病気や薬剤に関する知識はもちろん、導入を終えた後のサポートも重要です。こうした意味で、この治療に精通し神経難病を多く診る医師のほか、看護師、リハビリ、MSWといったコメディカルの経験が大切です。
LCIG療法は、薬の小腸への直接持続投与を行うために、胃瘻と呼ばれる孔を腹部に作ります。そこからチューブを入れて、小型の携帯用のポンプを使って薬を投与します。
胃瘻は胃カメラを使用して作成します。胃瘻を作成しても、これまで通り、食事は取れますし、入浴を含めて日常生活の制限はほとんどありません。また飛行機や船などの交通機関を利用して旅行などに出かけることも可能です。
LCIG療法の対象となるかどうかは、詳細な検討が必要になりますが、比較的、治療適応が広く、多くの進行期パーキンソン病の方が対象になります。詳細は、この治療を行っている医療機関での評価が必要になります。
この治療は2023年に発売された「ヴィアレブ®」という薬を使って行われます。
病気が経過し、症状に変動が目立つようになり、一日に何回も薬を服用しなければならなくなった場合、内服による薬物の血中濃度の変動を一定にするために、ポンプを使用して腹部の皮下から持続的に薬を投与します。
これを、ヴィアレブ®治療(ホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注射治療)と言います。
これによって、進行期のパーキンソン病で問題となる薬の効果の変動や不随意運動といった症状が大きく軽減されます。
また24時間、用量を変えながら投与することによって夜間や早朝の体の動きも改善することができます。
この治療では、腹部の皮下に柔らかいカニューレと呼ばれる細く短いチューブを留置します。
特別な外科的処置は必要としません。
このカニューレを介して外からポンプ(医療用補助機械)によって24時間持続的に薬を投与します。
入浴や運動、旅行などの外出など日常生活での制限はほとんどありません。
投与量の調整やカニューレ・ポンプの使用方法などの指導を含めて、この治療の導入は、この治療にくわしい医療機関で行われることが望ましいと思われます。
「体が硬くこわばって動かない」「起き上がりに時間がかかる」「体が傾いて倒れてしまう」「足がすくんで思うように進むことができない」「うまく物を掴むことができない」「文字が書きづらい」といった日常生活で必要な動作に対し、筋力増強練習、関節可動域運動練習、歩行練習、基本的動作練習、姿勢矯正練習、バランス練習、日常生活動作練習など様々なプログラムがあります。例えば、すくみ足や突進歩行の症状の患者さんに対しては、歩行開始時に「1、2、1、2」とカウントをとりながら数歩足踏みをしてから歩き始める、大きく腕を振りながら歩幅を広くとるように意識しながら歩くなど、歩行の安定性を図る歩行訓練や指導を行います。また、生活での困りごとによっては、ADL室を使用しご自宅に近い環境で生活機能を高める日常生活動作練習も行います。
音声障害(小声、かすれ声など)、構音障害(呂律が回らない)、嚥下障害(むせる、飲み込みにくい)などの症状に対しては、呼吸体操~発声発語訓練、嚥下訓練や食事環境調整、食事形態の検討などを行います。
運動療法と薬物療法を組み合わせることで病状の進行を遅らせることや運動障害に対して改善効果を有するといわれているため、早期からのリハビリテーションが重要です。患者さんの病状の進行や症状が一人一人異なるため、必要な検査や評価を実施し個々に合わせたプログラムを立案し、患者さんが安全、安心で、自分らしい生活を送れるように支援しています。どんな小さなことでも構いませんので悩んでいることや困っていることがあればお気軽にご相談ください。
LSVT®(リー・シルバーマン・ボイス・トリートメント)はアメリカで考案されたパーキンソン病に特化した、意識的な高い努力と頻度、反復を要する集中的な治療プログラムです。
LSVT®には通称「LOUD」と「BIG」と呼んでいる治療手段があります。「LOUD」は言語療法領域で「BIG」は運動療法領域を中心とした内容になります。「LOUD」「BIG」ともに認定有資格者によって実施されます。
LSVT BIG(エルエスブイティー ビック)はパーキンソン病でみられる小さくなった動作を正常な大きさへ改善し、その動作を日常で行えるようにすることを目標とした運動療法です。治療により日常生活での大きな動きが可能となりバランスや歩行の改善が期待されます。
マンツーマン指導で週4日連続の訓練を4週間実施(計16回/4週)と毎日の宿題を訓練のある日は1回、無い日は2回行います。訓練は1回60分、宿題は1回15~30分程度行います。 LSVTBIGは日常生活で困っている動作や改善したい動作を対象とし、「日常最大課題」「機能的要素課題」「階層的課題」「BIG歩行」「毎日の宿題」で構成された治療プログラムです。4週間の治療期間を通し自然と大きな動きで日常生活動作ができるように繋げていきます。
LSVT LOUD®(エルエスブイティー ラウド)は発声発話に対する治療法(言語療法)です。パーキンソン病の方は声が小さく、抑揚に欠ける発話になりやすいため、この訓練法により声を大きく出す習慣を身につけ、日常会話での声の大きさと発話の両方を改善することが期待されます。また言語療法領域では初めて、訓練効果に関するエビデンスが臨床研究では最高の”レベルⅠ”と認められた手法になります。
BIGと同様に、マンツーマン指導で週4日連続の訓練を4週間実施(計16回/4週)と毎日の宿題を訓練のある日は1回、無い日は2回行います。訓練は1回60分、宿題は1回15~30分程度行います。
LSVTLOUD®は「毎日の運動訓練」として「発声練習」「声域拡大訓練」などを行い、また「階層的発話訓練」として「単語」「短文レベル」「長文レベル」「会話レベル」へと週ごとに段階を踏んで大きい声を意識して発話訓練を行い、日常場面で大きい声で発話できるように繋げていきます。
パーキンソン病の患者さんは、診断、薬物治療、リハビリ、生活環境の見直しなどの目的で入院されます。
入院中は看護師の視点で、日内変動の状況や症状の出現状況を観察します。パーキンソン病の症状は、生活環境の中でも症状の出やすい場所があり、時間帯でも変化します。症状の観察と把握をすることで、薬の調整や退院後の生活を想定した環境の調整をアドバイスしています。
パーキンソン病の進行や症状の悪化により、今までご自分で出来ていたことが出来なくなり、病気に対する不安やストレスも抱えることが多くあります。患者さんのできない部分を看護師が補い、一緒に治療に挑むことで、患者さんの不安やストレスを軽減し、安心した入院生活を送る事ができるよう心掛けています。
外来看護師が患者さんと過ごす時間は限られていますが、パーキンソン病の患者さんの毎日の暮らしの中で、不都合が生じてきたときに、何ができるのか考えることが大切だと思っています。「最近、よく転ぶんです」「便秘がひどいんです」「食事や水分がとれなくて」「目が離せなくて、外出もできません」「トイレの介助が大変です」といったことをはじめ、「どうしてこんな病気になってしまったんだろう」「これからどうなるんだ」といった不安を持たれる方もいます。ご自宅での様子をお聞きし、どうしたら生活しやすくなるのか、どんな生活を望んでいるのかを知り、ご本人、ご家族と相談したり方法をご提案したりします。また、医師をはじめとする、院内外の専門職に橋渡ししたり、連携して支援していきたいと思っています。どうぞ、お気軽にお声かけください。
導入は入院で開始となり、患者さん本人やご家族が不安なく管理できるように、側で見守り、指導していきます。退院後は訪問看護師に支援を受けることも可能です。 「ポンプ(医療用補助機器)を携帯し、その操作を覚えなければならないなどの負担も増えますが、オフが心配で出かけられなかった方が「外出できるようになりました」など、喜びの声も多くあります。患者さんが「望む生活が送れるように」「治療継続のために」サポートさせていただきます。
退院後は外来でサポートを継続します。外来では、個別に時間をとって、生活や皮膚状況の確認、アラーム対応などトラブルの有無、ポンプの設定確認を行っています。