【監修】山田 萌美
頭痛
Headache
はじめに
まず、頭痛の分類についてご紹介します。頭痛は大きく一次性頭痛と二次性頭痛に分けられます。片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛など頭痛そのものが病気である頭痛を一次性頭痛といいます。脳卒中や頭部外傷、腫瘍、感染症などの別の病気が原因で頭痛が出ているものを二次性頭痛といいます。二次性頭痛には命に関わるものもあり、しっかりと見分けていち早く治療につなげることが重要です。もともと一次性頭痛をお持ちの方に、新たに二次性頭痛が加わることもあります。一次性頭痛と二次性頭痛は症状だけでは見分けがつきにくい場合もありますので、頭痛でお困りの場合はご自分で判断せず、医療機関でのご相談をお勧めいたします。
片頭痛をはじめとする一次性頭痛はありふれた疾患です。よくある症状なので病気だと思っていない方もいるかもしれません。しかし、たかが頭痛、と長期間放置すると慢性化し生活に支障をきたしてしまうことがあります。次の項目では、頭痛のなかでも頻度の高い片頭痛を中心に診断や治療の流れを紹介していきます。
「片」という文字がついている通り、片側の頭痛を訴えることが多いですが、両側の痛みを訴える方もいます。痛み方は、「ずきずき」「どくどく」「脈打つような」といった拍動性といわれる痛みであることが多いです。頭痛は、体を動かすと悪くなります。また、音や光に過敏になります。患者さんから「暗い部屋でじっとしている方が楽」というお話を聞くと、片頭痛を積極的に疑います。吐き気も伴うこともあり、症状が強い方は嘔吐してしまうこともあります。 これらの症状に先駆けて、「キラキラしたものが見える」「視野がかける」などの前兆を訴える方もいらっしゃいます。その他、視覚以外の感覚症状、言語症状、運動症状などが知られています。

これまで片頭痛のメカニズムについてはさまざまな説が唱えられてきましたが、現在有力なのは三叉神経血管説という説です。頭部にひろく分布する三叉神経という神経が興奮すると、隣接する頭蓋内の硬膜にある血管が炎症を起こし、片頭痛を起こしていると言われています。炎症には、CGRPやサブスタンスP、ニューロキニンAなどの神経ペプチドと呼ばれる物質が関わっているとされています。この中でも特にCGRPという物質が注目されており、実際に片頭痛の予防治療に応用されています。
誘因
ストレス、ストレスからの解放、疲れ、睡眠の過不足、月経周期、天候の変化、温度差、におい、音、光、運動、欠食、性的活動、旅行、空腹、脱水、アルコール、特定の食品
診察室では、頭痛の程度を評価するために、頭痛の頻度(ひと月に何回くらいか、週に何回くらいか)やどのくらい重症か、頭痛時の薬の服用の頻度などを聞きます。他覚的に異常がないかどうかを検索目的に神経学的診察を行います。脳卒中や脳腫瘍などの他の疾患がないかどうかを確かめる目的に、頭部CT検査や頭部MRI検査を行うことがあります。頭痛に関する質問票や、頭痛ダイアリーを記入してもらうこともあります。
急性期の治療
薬物療法が中心となります。 比較的安全性が高く安価な薬剤としては、アセトアミノフェンやNSAIDsなどのいわゆる解熱鎮痛薬があります。 これらのお薬が無効な場合や、重症度が高い場合はトリプタン製剤という薬を使用します。使用のタイミングには少し工夫が必要です。このお薬は血管の収縮作用があるので、脳卒中や心疾患の既往のあるかたは使えません。 その他、比較的最近発売されたお薬に5-HT1F受容体作動薬というお薬があります。こちらは血管の収縮作用がなく、トリプタン製剤が使えない方でも使用できますが、副作用としてめまいや傾眠があり使用にあたっては注意が必要です。 これらの薬に、吐き気止めのお薬を併用することもあります。いずれのお薬も、使用頻度が月の半分以上を超えるような薬物使用過多にならないように注意が必要で、そのような方は次で述べるような予防治療の対象になります。
予防治療~経口薬~
頭痛の頻度が多い方や、生活への支障度が高い方は、予防療法といって頭痛発作そのものを抑える目的でお薬を使用することがあります。副作用などの理由で急性期治療薬が使用できない方も適応になります。 頭痛発作予防のために毎日お薬を服用してもらいます。Ca拮抗薬、β遮断薬、ARB/ACE阻害薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などのさまざまなお薬が片頭痛の発作予防に有効であることがわかっています。効果がでるまでに時間がかかることが多く、月単位で服薬を継続することが重要です。ただし、お薬の種類によっては眠気などの副作用がでることもありますので、服薬の継続にあたっては医師との相談が重要です。
予防治療~注射薬~
内服での予防治療がうまくいかない方は、注射薬を使用することがあります。現在、日本では片頭痛予防を目的とした3種類の注射薬が発売されています。どれも、先に原因の項目でお話ししたCGRPという物質の働きをブロックするお薬です。基本的には4週間に1回、皮下注射を行います。製剤によっては12週に1回投与のタイプもあります。作用点や用法用量など3製剤で少しずつ特長が異なります。4週に1回投与タイプの製剤は注射指導の後、自己注射を選択することができます。

その他の治療
自然食品やサプリメントのようなものにも片頭痛に効果があるとされています。マグネシウム、ビタミンB2、コエンザイムQ10、ナツシロギクなどの有効性が示唆されています。漢方薬を処方することもあります。有酸素運動、カイロプラクティック、鍼治療などの理学療法の有用性が報告されています。他に、認知行動療法やバイオフィードバック療法というものあります。ただし、これらの治療方法は薬物療法よりはエビデンスが低いものや、保険適応になっていないものがあり病院でこれらすべての治療を受けられるわけではありません。
食物や睡眠(不足、過多)、ストレス、天気などが誘発因子となる方がいらっしゃいます。頭痛ダイアリーなどをつけることによって傾向をつかんでみるのも良いでしょう。
その他の頭痛
両側性の締め付けられるような痛みが特徴の頭痛です。こめかみや首の後ろなどに圧痛がある方もいます。片頭痛と比べると軽症であることが多いですが、慢性化すると日常生活に大きく支障をきたすこともあります。急性期にはアセトアミノフェンやNSAIDsなどの解熱鎮痛薬が有効ですが、使い過ぎには注意が必要です。慢性的なタイプの方は予防療法として抗うつ薬などのお薬を毎日服用してもらうこともあります。頭痛体操などの運動療法も有用とされています。 慢性片頭痛と並存することもありその場合は慢性片頭痛として治療を行います。精神疾患との合併がしばしばみられ、心療内科や精神科などとの連携が必要な場合もあります。
数週間~数月程度、激しい頭痛発作が出現する疾患です。眼の周囲や側頭部の激痛を訴えます。同時に鼻詰まり感や涙が出ることがあります。あまりの痛さにじっとしていられないと訴える方が多いです。男性や喫煙や飲酒の習慣のある方に多く、夜間や早朝に発作が集中します。発作期には片頭痛の急性期治療でも紹介したトリプタン製剤を試みます。高濃度酸素吸入も有効です。予防薬としてCa拮抗薬やステロイドなどを使用することがあります。
ここで、薬物乱用頭痛とよばれる病態についてもふれていきます。1か月に15日以上の頭痛があり急性期の頭痛治療薬を3か月を超えて使用している場合、この疑いがあります。ベースとなる頭痛は必ずしも片頭痛とは限りません。薬剤の使用頻度については、鎮痛薬をひと月当たり15日以上使用している、片頭痛の患者さんではトリプタン製剤をひと月当たり10日以上使用している場合などとされています。このような患者さんでは原因となっている薬物の中止が推奨されます。突然の薬剤中止による離脱症状を予防するために、先にお話しした予防療法も一緒に行うこともあります。慢性片頭痛に合併したMOHではCGRP製剤の有効性の報告もあります。思い当たる方は、早めの医療機関への受診をおすすめします。
医師からのメッセージ
片頭痛を中心に頭痛について解説してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。頭痛は知らないうちに徐々に悪くなり、気づいたときには日常生活に思わぬブレーキをかけていることがあります。頭痛で困ったことがある方は、たかが頭痛、と思わずに一度、病院での相談をおすすめいたします。

片頭痛の外来看護
頭痛が生活に大きく影響している患者さんは多くいらっしゃいます。 パンフレットや頭痛ダイアリー、チェックシートなどを使用し、どれくらい生活に影響しているのか一緒に振り返っています。 患者さんのなかには、薬や注射の効果を感じられない、薬剤を変更したいと言われる方もいますが、こうした客観的な振り返りによって、頭痛が与える生活への影響、頭痛薬や予防薬の効果が見えやすくなります。 外来受診で「定期的に決められた注射を打つ」だけではなく、患者さんそれぞれの生活背景に焦点をあてて、主治医と連携しながら支援していきたいと考えています。
頭痛の予防注射が始まる際、 医師からの説明後に、看護師からも具体的な注射導入の流れや金銭的な負担等についてお話ししています。 注射で気になる部分は痛みだと思いますが、当院では注射部位を冷やして緩和したり、深呼吸と合わせてリラックスした状態で注射し、痛みを緩和する等の対応をしています。 自己注射希望の方には複数回外来で指導を行っており、安心して自宅で注射できるように継続的にサポートしています。

頭痛でお悩みの方は本当に多くいらっしゃいます。「頭痛がなくても痛くなったらどうしようと不安で出かけられない」「一番身近な家族にわかってもらえないのが苦痛」「仕事に穴をあけられないプレッシャーを日々感じてつらい」 そんなそれぞれの患者さんの気持ちに寄り添い、少しでもお力になれたらと外来看護師一同考えておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。