【連載】多発性硬化症の人のための新型コロナウィルス(感染症)対策
第5回 感染予防はストレスを溜めすぎないで
<この文章は、2020年5月12日時点の情報をもとに書かれています>
最終回の今回のお話は、世界中で新型コロナウィルス対策が進む中、多発性硬化症の方はどうしたらよいのか、です。
道の緊急事態宣言や、国の緊急事態宣言を受けて、多発性硬化症かどうかを問わず、可能な限り人との接触を避けることが求められ、マスク着用や手洗いといった感染予防のための行動も広く言われています(私たちも手洗い動画などを紹介していますが)。
こうした状況で私たちが多発性硬化症の方を心配しているのは、新型コロナウィルスによる感染症(covid-19)はもちろんですが、ストレスです。数十年にわたり多発性硬化症の方を見続けてきた私たちは、再発の大きな要因はやはり過度のストレスであると感じています。
・今までと違う行動と環境に慣れるためのストレス
・新型コロナウィルスにいつ感染するかわからない、感染したら重症化するかもしれない、再発するかもしれないという恐怖
・世の中の見えない先行きに対する不安
20世紀の生理学者ハンス・セリエさんは、彼のストレス学説の中で、ストレスを受けた後の人の抵抗力の変化を次のように説明しました。
ストレスを受けた直後(ショック相)は抵抗力が落ちますが、すぐに反発して抵抗します(反ショック相)。正常に抵抗できる時期(抵抗期)をへて、やがて疲れて抵抗力が落ちていく期間(疲憊期:ひはいき)に移ります。
皆さんも私たちも、前述の3つに代表されるストレスを、受けています。
今、あなたはどの期間にいるでしょうか。疲憊期ならすぐに、休息をとったり誰かの助けを求めたりしてください。抵抗期なら、ストレスをより少なくしていく必要があります。ストレッサー(ストレスの原因)をなくすことができれば良いのでしょうが、現状ではそうもいきません。
多発性硬化症の方に限らず、感染症を100%避けられる人はいません。
感染予防は、小さなことの積み重ねです。
多くの人と近づかない
手を洗う
手荒れをケアする
うがいをする
リフレッシュする
薬を飲む(あるいは注射する)
運動して、食べて、寝る(健康の三要素と言います)
孤独にならない(愛と所属)
誰かを認め、誰かに認められる(承認)
ある目的のために何かをする(自己実現)・・・
これらの積み重ねが感染の確率を下げ、ストレスを少なくし、再発も少なくしてくれるはずです。
積み重ねですから、1回手を洗わなかったからといって全てが崩れることはないでしょうし、どれか一つを完璧にしたところで感染しないということもないでしょう。
何をすると積み重ねになるかは、人によって様々です。
日々増えたり減ったりする感染者の人数を追うことも、何かの目的があってするのはいいでしょうが、暗い気分になるならニュースを見ないということも一つの手段です。
正しく手洗いして人と距離をとれば感染の確率は減ります
感染したからと言って必ず再発するわけではありません
多発性硬化症自体は重症化リスクではありません
治療薬と新型コロナウィルスとの兼ね合いは、もちろん相談してください
私たちは、皆さんが家にいても一緒に体を動かせる動画をお届けしたり、メッセージをお届けしたり、来院されたときのために玄関に花を飾ったりして、皆さんが少しでもストレスと離れられるような試みを積み重ねています。もちろん、病院とは長いつきあいになりますから、月1回の通院が楽しいとまではいかないまでも、苦痛ではないような場所になるよう心がけています。
今はストレスの多い時期ですが、あなたにとって無理なく、効果的な積み重ね方を是非見つけてください。
それはきっと、コロナ後にも役に立つことと思います。
(この項終わり)
文:医療法人セレス神経難病学習センター
監修:深澤 俊行(さっぽろ神経内科病院 院長)