【連載】多発性硬化症の人のための新型コロナウィルス(感染症)対策
第4回 感染症を防ぐには?その2
<この文章は、2020年4月20日時点の情報を素に書かれています>
前回では感染症を防ぐには?その1として、感染のなりたちと、接触感染について取り上げました。
今回は飛沫(ひまつ)感染についてご説明します。ここではウィルスを例にとります。
ウィルスに感染した人がくしゃみや咳、おしゃべりなどをすると、ウィルス入りの唾液や鼻水などの飛沫を周囲に出します。普通の会話でも1メートルほど、咳やくしゃみでは2メートルほど飛ぶと言われています(周囲がびっくりするくらいの大きいくしゃみをする人は、もっと飛距離があります)。これを吸うことでウィルスなどに感染します。飛沫感染といいます。
また新型コロナウィルスは、空気中に漂うエアロゾルとなって、一定時間(3時間ほどとする報告がおおいです)空気中に存在する可能性が指摘されています。
感染した人(感染源)の口から飛び出たウィルス入りの飛沫は、だいたい1~2メートルほど飛んで、地面に落下します。落下するまでの間に宿主(あなた)の口や鼻から吸われれば、体内に侵入します。そして、定着して増えていけば、感染した、という状態と言われます。
新型コロナウィルスは体のどこにでも定着するわけではなく、アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体というとっかかりがあるところで定着・増殖すると予測されています。
ACE2受容体は口や鼻の粘膜に多い(他には、目、心臓、肺、腎臓、消化管)ので、ウィルスが口や鼻に侵入すると定着・増殖して症状を出します。ウィルス入りの飛沫を吸わないように、また、自分の手でウィルスを口や鼻に入れないようにする必要があります。
自分の手でウィルスを口や鼻に入れないための対策(接触感染の対策)の一つは、手洗い(当院看護師による手洗い動画はこちらyoutube)と、マスク(口や鼻を触りにくくする)でした。
飛沫を吸わないようにするためには、どうしたらよいでしょうか。
実はこれが難しく、一般に市販されているマスクでは、肌とマスクの間の隙間があり、マスク自体の目が粗く、また、ウィルスの付着したマスクの表面を手で触らないでいることが難しいことなどから、完全に予防することはできません(WHOがマスクでは感染を予防できない、と言っているのはこのあたりに根拠があります)。
ただし、自分の飛沫を遠くに飛ばさない効果は、状況によっては期待できます。
また、乾いた粘膜はウィルスに感染しやすくなります。マスクは吐いた息の水分をどどめるので保湿効果があり、口や鼻の乾燥を防ぎます。外出後のうがいはもちろん大事ですが、外出しなくても1日3回程度うがいをすることで、口の中の乾燥を防ぎます。
ちなみにうがいは1回15秒程度を2回繰り返します。
飛んでくる飛沫や空気中のウィルスなどを吸わないようにできるマスクは、「N95」といわれるマスクで、限られた医療現場でしか使われません。正しくつけると息苦しく、常時はつけていられません。
病院の外来や病棟で日常的に使われているマスクは、サージカルマスクといわれており、目が細かく、耐水性があります。ただ、一般的なマスクと同様に、肌とマスクの間に隙間ができますから、自分の飛沫を飛ばさないことはできても、外からの飛沫や空気中のウィルスを吸わないことは期待できません。
ウィルス入りの飛沫を吸わないためには、人からできるだけ離れるというのが、飛沫を受ける人ができる数少ない予防策となります。
多発性硬化症国際連合がリリースした多発性硬化症の方への新型コロナウィルス対策の助言にある、多発性硬化症の人に限らない全ての人に大切な5項目のうち、
・Try to keep at least 1 metre distance between yourself and others, particularly those who are coughing and sneezing
(他の人とはできるだけ1メートル以上離れて)
特にMSの人へのアドバイス3項目のうち
・Avoid public gatherings and crowds
(人が集まるところを避けて)
・Avoid using public transport where possible
(公共交通機関の使用を避けて)
は、こうした飛沫感染を予防する行動であると言えます。
こうして考えると、飛沫を受ける人には防御の手段はそう多くなく、飛沫を出す人の協力(咳マナー、マスク)にかかっていると思われます。新型コロナウィルスは感染しても無症状の方がいて、無症状でもウィルスを出して感染源になる可能性が考えられています。ご存じのように検査も万能ではなく、自分が感染源になっていても、それに気づく完全な方法はありません。
ここでのテーマは、「自分が感染しないためにはどうしたらいいか」ですが、「自分が感染源にならないためにはどうしたらいいか」、という視点と表裏一体です。
接触や飛沫といった感染経路やウィルスの様子から、感染しないための方法が考えられるのですが、多発性硬化症の方は何に気をつけて予防の行動をしたらよいのでしょうか。
次回(最終回)は、多発性硬化症の人が何に注意して新型コロナウィルス対策をしていくとよいか、を解説します。
つづく
文:医療法人セレス神経難病学習センター
監修:深澤 俊行(さっぽろ神経内科病院 院長)