解説 多発性硬化症

多発性硬化症についてご説明します。



多発性硬化症・基本編

日本では約1万4千人の方が多発性硬化症です。基本編では、多発性硬化症にはどのような症状があるのか、どのような人に多いのかなどを解説します。


多発性硬化症とは

中枢神経とよばれる脳や脊髄、視神経に起こる病変の場所によって、様々な症状を出すのが多発性硬化症の特徴です。脱髄と呼ばれる病変が中枢神経の複数の場所に起こり、時間の経過の後に再び脱髄が起こる(再発)など、病変が多発する特徴があります。 男女別では女性に多く、20~30代に発症する方が多く見られます。患者数はあまり多くなく、全国に約14,000人、北海道には約1,100人の患者さんがいます。世界的には高緯度の地域に多い病気で、日本の中では北海道が最も多発性硬化症にかかる人の割合が高い地域です。

欧米では多発性硬化症にかかる人が多いため有名な病気ですが、日本ではあまり知られていない病気です。WHOによる2008年の調査によると、多発性硬化症にかかる人の割合が多い国は左図で示され、北米やヨーロッパに多く、世界的に見ると日本ではあまり多くない事がわかります。 しかし日本では年々多発性硬化症患者さんは増え続けています。

脳図
図

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多発性硬化症の症状

前述のように、病変の場所によって様々な症状を出すことが考えられます。患者さんが自覚しやすい症状としては次のようなものがあります。

視力障害(視力の低下、中心が暗く見える、視野が狭くなる、もやがかかったように見える、眼の痛み)、運動麻痺(力が入らない、つっぱり、ふるえ)、歩行障害、感覚障害(感覚の鈍さ、しびれ、痛み、冷たく感じる、ほてる、かゆみ、締め付け感)、レルミッテ徴候(下を向くと背中から足にかけて電ビリッとした痛みが走る)、三叉神経痛(顔の痛み)、有痛性強直性筋痙攣(こむら返り)、構音障害、めまい、排尿障害、排便障害、ウートフ現象(体温が上昇すると症状が一時的に悪化する)、倦怠感(だるさ、疲れ)。

また、新しく病変が出来ても症状が出ない場合もありますが、この場合も治療が必要なことがあります。従って、多発性硬化症と診断された方は、症状がなくても定期的に受診して活動している病巣がないことを確認する必要があります。これらの全ての症状が全ての患者さんに出るわけではありません。多発性硬化症は非常に個人差の大きい病気です。個人差が大きい病気ですもあわせてお読み下さい。

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多発性硬化症の診察・検査

多発性硬化症に限らず、神経内科での診察は時間をかけて行います。特に、いつから・どのような症状が出たか・どのような時に症状が強くなったかなど、症状の経過を捉える「問診」が大切になります。症状のメモなどを取っておくとスムーズに診察を受けることができます。

MRIは、多発性硬化症の病巣を視覚的に把握できる点で非常に有効な検査です。その他、初回診断時に重要な髄液検査や、体を軽く叩いて神経の働きを見る「打診」などの検査があります。

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多発性硬化症の治療とタイミング

多発性硬化症の原因は、自分の神経を自分の免疫(白血球)が攻撃するためと言われています。神経への攻撃が始まると神経を保護している「髄鞘」がダメージを受け、様々な症状が出ます。できるだけ早期に治療を開始することによって、神経のダメージを最小限にとどめ、リハビリでの維持・回復を容易にします。

神経への攻撃が長期になったり神経への攻撃自体が激しい場合には、神経を保護している「髄鞘」だけでなく神経の「軸索」がダメージを受けるため、症状の回復が難しくなる場合があります(下の図は神経細胞の模式図です。これらの神経細胞が束になって脳や脊髄を作っています)。

図

ですから、先述の症状が出た場合には可能な限り早期に医療機関を受診することが非常に大切になります。
もし中枢神経に異常がなかったとしても、脳や脊髄、末梢神経が健康である事を確認できる点で、安心できることになります。

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個人差が大きい病気です

多発性硬化症という同じ病気でも人によって、症状や症状の程度、後遺症、再発、進行、治療効果が異なります。従って、多発性硬化症の情報の解釈には注意が必要です。
 多発性硬化症の症状でご説明したすべての症状が、すべての患者さんに出るとは限りませんし、同じ症状であっても程度や感じ方が異なる場合が多くあります。これは、病巣が中枢神経のどこにどの程度あるのかによって、症状の出方が違うためです。

患者さんに関心の高い再発の要因への対応についても、患者さんそれぞれによって異なります。例えば、最近の研究では「喫煙は再発の要因となる」という結果が報告されています。しかし、喫煙をしていても再発が無く安定した状態で日々を過ごされているならば、再発の原因だからといって無理矢理禁煙を強制される必要はありません。
もちろん、ご本人が多発性硬化症の再発やその他の体への影響を考えた上で、すすんで禁煙に取り組むことは間違っていませんし、正しい選択だと言えます。

このように、多発性硬化症という病気像自体が個人で異なるほか、治療や再発防止への対応や日常生活での対策も個人で大きく異なります。さらに生き方の選択肢が豊富であり個人によって精神面での成熟さに大きなばらつきがある20~30代が、多発性硬化症と向き合う方法は個人によって全く異なるものです。

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セカンドオピニオン・多発性硬化症相談

当院では、セカンドオピニオンも承っています。まずはお問い合せ下さい。

さっぽろ神経内科クリニックは、多発性硬化症の診療・研究に実績のある医師や神経内科経験が豊富な看護師が在籍し、理学療法・作業療法・言語聴覚療法の充実したリハビリ体制があります。
また、多発性硬化症の検査に欠かせないMRIなどの検査機器を揃えています。

平日にお仕事をされている方でも安心の日曜日の外来や、19床の病棟を設置していますので入院での治療もスムーズに行えます。
その他、地方の患者さんが対象のインターネットを利用した遠隔診療、障害があり通院が難しい方への訪問診療など、多発性硬化症をはじめとする神経難病の患者・家族の方々に充実した医療を提供する努力を行っています。

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多発性硬化症・治療編

多発性硬化症の治療について解説します。


多発性硬化症治療の基本的な考え方

多発性硬化症は患者さんによって症状や再発、進行など様々な点で多様であることが最大の特徴です。また、患者さん個人の生活環境、社会環境、そして価値観も多様です。
つまり、患者さんに最善な病気への対応の方法は、患者さんによって異なるのです。

病気になったことによって患者さんとご家族、そして医療従事者と社会に課せられた課題も多彩なのです。患者・家族と医療チームが一緒に知恵を出し合って目の前の病気に対応していかねばなりません。福祉制度の相談・提供、不安に対する心理療法なども広い意味での治療です。
病気自体の治療のみが医療ではなく、治療薬の選択・提供のみが診療ではありません。

医者と患者

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多発性硬化症の治療

患者

多発性硬化症の治療には4本の柱があります。まず、急に症状が出た再発時には症状をできるだけ早く改善する必要があり再発治療を行います。
再発治療の中心は副腎皮質ホルモンの大量療法ですが、時に血漿浄化療法なども行われます。

多発性硬化症の治療でもっとも大切なのは再発予防の治療です。
将来の障害をできるだけ回避するための重要な治療で、現在日本では、インターフェロンやフィンゴリモドが保険適応となっています。

三本目の柱はリハビリテーションです。
残念ながら障がいを遺しても、生活におけるハンディキャップを軽減することは可能です。

四本目は対症療法です。多発性硬化症の症状としてのしびれ、痛みは稀ではありません。筋肉が硬く突っ張る症状も同様です。
これらの症状に対する、本人に合った適切な治療を主治医と患者さんと一緒になって見つけ出します。

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再発したときの治療

再発時には副腎皮質ステロイド(ステロイド剤)を大量に点滴するのが標準です。
ステロイドパルス療法と呼ばれています。ステロイド剤とはもともと私たちの体の中で毎日分泌されているホルモンの一種です。
微妙な量で体の様々な部分の状況を調整するホルモンですが、大量に投与されると免疫や炎症を強く抑えます。それらの働きを多発性硬化症の治療に利用するのです。長期間の使用は副作用が心配なので原則的には短期間の使用です。
ただし、特殊な場合には少量を長い間にわたって飲み続ける必要があります。

患者

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再発を予防するための治療

MSでは適切な急性期治療にも関わらず障害が残存・進行することが少なくありません。将来におこりうる障害をできるだけ回避する目的で試みられる治療は病態修飾治療(Disease modifying therapy ;DMT)と呼ばれ、そのために使用する薬剤を病態修飾薬(Disease modifying drug ;DMD)と呼びます。
急性期治療は長期予後には基本的に影響しませんからMSの診療においてはDMTを常に考慮すべきです。

2017年7月の時点で世界的に有効性が確認され日本で保険適応のあるDMDはインターフェロンβ1-b製剤(商品名;ベタフェロン)、インターフェロンβ1-a製剤(商品面;アボネックス)、フィンゴリモド(商品名;ジレニア/イムセラ)、ナタリズマブ(商品名;タイサブリ)、グラチラマー酢酸塩(商品名;コパキソン)、フマル酸ジメチル(商品名;テクフィデラ)の6つです。ベタフェロンは隔日の皮下注射、アボネックスは週に1回の筋肉注射、ジレニア/イムセラは1日1回の経口薬、タイサブリは4週に1回の点滴、コパキソンは毎日の皮下注射、テクフィデラは1日2回の経口薬です。
ジレニアとイムセラは商品名が違うだけでまったく同じものです。

それぞれの薬剤の効果は人それぞれですが、有効性の高さの順番は、タイサブリ>ジレニア/イムセラ・テウフィデラ>ベタフェロン・アボネックス・コパキソンと考えられます。ただ、安全性はベタフェロン・アボネックス・コパキソン>>テクフィデラ>ジレニア/イムセラ>タイサブリとなります。ベタフェロン・アボネックス・コパキソンには基本的に怖い副作用はありませんが、他の3つには進行性多巣性白質脳症などの重篤な副作用の可能性があります。
様々な要因を慎重に考慮した上で、適切なDMDを選択します。DMTの選択/使用には医療者側の専門的な知識と経験は当然ですが、患者さん側の病気と治療薬の理解、患者さんと医療者の間の信頼関係、副作用対策などがとても重要となります。

また、MSの症状/経過は多彩で、患者さん個人の生活環境、社会環境、価値観も多様です。効果の強い薬、使いやすい薬、新しい薬が個人にとって有用とは限りません。さらに長期予後に影響する要因は薬だけではなく、たとえば精神的ストレスなどが再発に関連することは経験的にも明らかです。
患者さんの一生に視点がおかれ、個別性を重視した、病初期からの適切で多面的な対応が必要です。

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リハビリテーション

残念ながら障がいを遺してしまっても、生活におけるハンディキャップを軽減することは可能です。
そのためにリハビリテーションはとても重要ですが、多発性硬化症に対する特別なリハビリテーション手段があるわけではありません。脳や脊髄の障害から現われているさまざまな症状・障害に対して理学療法、作業療法、言語療法などを適切に組み合わせて実施します。

多発性硬化症は再発することが特徴ですからリハビリテーションを行う場合にも時期を考慮する必要があります。急性症状の直後は関節可動域運動などの負荷の少ないものから始めますが、できるだけ早期からの開始が重要です。
積極的な機能回復訓練は再発がおさまり病勢が安定してから開始します。障害によって運動が少なくなると、本来は障害を受けていない全身の様々な機能までも低下することがあり廃用症候群と言います。

急性期、慢性期を問わずに廃用症候群の予防のために適度のリハビリテーションの継続は重要です。
ただ、体を動かし過ぎると、かえって機能が低下してしまう場合もあります。このあたりのバランスは患者さんによって違いますからリハビリテーションの専門スタッフと相談しながらの適切な継続が必要です。

患者
  • ●理学療法(PT)は、起立、歩行、ベッドや車いすなどへの移動動作、寝返り・起きあがりなどの基本動作訓練を行います。
  • ●作業療法(OT)は手芸、料理、工作などの創造的生産的活動を通して手指の動きの改善を行います。また、精神活動の賦活化を行い、家事動作や仕事における動作の改善から家庭や社会にうまく適応できるように訓練します。
  • ●言語療法(ST)は言語聴覚士が行いますが、うまく言葉が使えなくなった患者さんの言語の訓練を行います。日常生活では大きな声を出す機会自体が非常に少ないですから大きな声を出すだけでも健康増進に有用です。言語聴覚士は言語訓練のほかに飲み込みの訓練(嚥下訓練)なども行います。

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インターフェロン注射導入のしおり

さっぽろ神経内科病院では、多発性硬化症の再発予防治療であるインターフェロン療法を実施しています(*インターフェロン療法の概要はこちらをご覧下さい「再発を予防するための治療」)。インターフェロンは患者さんやご家族による自己注射が可能ですので、その際は注射の練習が必要となります。注射の指導は、看護師が統一された方法で行っています。その際に使用しているマニュアルをご紹介します。

インターフェロン注射のしおり

当院で使用しているインターフェロン注射のしおりです。2011年2月に発売された新包装のベタフェロンに対応しています。 当クリニックでは「ベタウェイ」「ベタフェロンステーション」の標準使用を勧めています。

【ご利用条件】
「再発を予防するための治療」「ダウンロードする(A5サイズ・pdf形式・1.2MB)」


解説■医療法人セレス
更新■2018/5/1